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以前精子の精製というお話しの中で、"先体反応"という言葉が出てきましたが、今回はその先体反応についてです。

精子は頭部に先体と呼ばれる分泌小器官があり、内部にはたくさんの酵素が存在しています。この酵素が、受精時、卵子へと入っていく際に重要な働きをします。受精では、精子は顆粒膜細胞(採卵時にみていただいている卵子のまわりにあるふわふわした細胞)に包まれている卵子を認識し、近づきます。するとまず、先体からヒアルロニダーゼや放射冠通過酵素という酵素を放出することで卵子のまわりにある顆粒膜細胞の結合をゆるめ、その中を通過し卵子にたどり着きます。つぎにアクロシンという酵素を放出して卵子の殻の部分を通過し、中へともぐりこみます。このように、受精するために精子が卵子の中へと入りこむ際の反応が先体反応と呼ばれるものです。

この先体反応を起こすためには精子が受精能を獲得しなくてはなりません。体内では子宮や卵管を通過する際に獲得しますが、体外受精では精子精製をする過程で獲得できています。

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出生時精巣には胎児期に作られた精祖細胞が存在します。出生後精祖細胞は体細胞分裂し、1つの精祖細胞から4つの一次精母細胞が作られます。一方出生時卵巣には胎児期に作られた卵祖細胞が体細胞分裂し、一次卵母細胞(原始卵胞)となった状態で存在します。このように出生時には精子と卵子の元はすでに違う段階で存在しています。つまり、出生後精子の元である一次精母細胞は増やすことができ、増やすたびに生まれたての細胞になりますが、卵子の元となる一次卵母細胞は増やすことができず、私たちと同じように年を重ねていきます。

さらに、思春期になり精子、卵子が作られる過程でも違いがあり、精子は1つの一次精母細胞から減数分裂によって4つ作られますが、卵子は1つの一次卵母細胞から減数分裂によって1つしか作られません。

  

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精子の大元となる細胞を、"精祖細胞"といいます。

まだ お母さんのお腹の中にいる頃に精巣で作られます。

出生後、思春期までは精祖細胞のままの状態で休止しています。思春期以降になると、精子形成へと始動し始めます。

約80日ほどかけて、丸い形をした精祖細胞は、精母細胞そして、頭部、中片部、尾部を有するオタマジャクシの様な形へと変化し、しっぽを動かし前進する精子へと成長します。

以前お話しした卵子形成時とは異なり、、"精祖細胞"は精祖細胞の状態で精巣に止まり、胎児期にその数を激減することはありません。

 

卵子になるまで、精子になるまでの成長過程は異なります。

 

 

精子も胚と同様、-196℃の液体窒素中で凍結保存されます。

保存期間は半永久的だといわれています。急な出張や単身赴任などで採卵当日に採精できないときは前もって精子を凍結しておくことができます。

 

ではその凍結方法ですが、精子も胚と同じく、ただ急激に凍らせればよいというものではありません。精子は胚に比べ大きさも小さく、含有水分量も少ないので、胚の凍結ほど脱水に関して難しい操作は必要ありません。しかし、何の操作もせず液体窒素中に入れれば、ほぼすべての精子が死滅してしまいます。そこで、凍結保護剤が入った液体と混ぜ合わせてから凍結します。この保護剤にはショ糖やグリセリン、DMSOといたものが含まれており、精子を凍結の害から守ってくれています。このようにして、精子も次の受精の機会を冷たい液体の中でじっと待つことができます。しかし、それでも融解後の精子は、凍結前に比べると生存率、運動率ともに下がってしまいます。そのため、融解後の状態によっては顕微授精適用になってしまうこともあるかもしれません。ですが、凍結したからといって精子の染色体異常がおきたり、受精能がなくなるといったことはなく、受精率も新鮮精子と同等だといわれていますので安心してください。融解後は再度精子精製を行い、凍結に耐えられた元気のよい精子だけを集めて受精の場へと送り出されます。

今回は精液検査でよく耳にする、精子の運動率と奇形率についてのお話です。

 

 <運動率>

精子の運動率を測定するには、非運動精子と運動精子の数をカウントして、その比率を運動率とします。運動精子は次のように分類されます。

    A:スピードが速く、首を振りながら真っすぐ進んでいる精子

    B:スピードが遅く、くねくね進んでいる精子

    C:しっぽは動いているが前進運動していない精子

運動率の正常値は、50%以上とされています。

 

<奇形率>

しっぽの部分が曲がっている、しっぽが少し短い、頭部が大きい、変形しているなど、主に精子の外見上の分類で奇形精子は定義されています。

精液検査で奇形があることがわかっても、驚くことはありません。奇形精子は誰にでも存在していて、割合が多い場合が問題となるのです。70%未満なら心配いりません。

密度勾配遠心法による精子分離は、精子の成熟段階で細胞密度が変化することを利用したものです。精液の中では成熟精子の細胞密度がもっとも高く、未成熟精子は残存する細胞小滴のため、細胞密度が低くなります。また死滅した精子は細胞膜の透過性が変化し、水分が細胞内に浸透するため、密度が低下します。

アイソレートという精子分離剤を使って精液を遠心することで、精液中の不純物や変性細胞、奇形精子、死滅精子などを取り除くことができ、元気のいい成熟精子を回収できます。

下の図のように、90%、70%、50%のアイソレートと精液を重層し遠心をかけると、重いもの(密度の高いもの:成熟精子)は下に沈み、軽いもの(密度の低いもの:未熟精子や死滅精子)はアイソレートの層に引っかかるので、元気のいい成熟精子を分離することができます。

一番下に集まった元気な精子は、さらに洗浄しきれいにして濃度を調節してから、媒精に用いられます。

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精液は、液体成分「精漿(せいしょう)」と細胞成分「精子」とで構成されています。

体内では、膣内に射精された精液は、子宮頚管→子宮腔→卵管と通過しながら、精漿の除去と運動精子の選別が行われます。さらに精子は受精能獲得、先体反応などの生理的、形態的変化を経て、受精が可能となります。

体外受精の場合も同様に、精漿の除去、運動精子の選別・変化が必要となります。精子の精製は、これらのことを体外で代行する操作のことで、体外受精において重要なプロセスの一つです。精子精製法には何種類かありますが、たまごクリニックでは、密度勾配遠心法を行っています。そして、精製後に集まった運動精子の数や動きをみて、「通常の体外受精」がよいか「顕微授精」がよいかを判断しています。

密度勾配遠心法については、次の機会にお伝えしますね。

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精子の写真を見る機会は、あまり多くないと思います。ここには2匹の精子が写っています。頭があって、シッポがあって、泳ぎます。まるでおたまじゃくしのようですね。ヒトの顔がひとりひとり違うように、精子も一匹一匹泳ぎ方や形が少しずつ違うんですよ。

 

 

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