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6月7日 午前11時より、金沢たまごクリニック新築予定地に於いて、地鎮祭を行いました。

当日は天候にも恵まれ、多くの関係者の方々のご出席をいただき、厳粛な雰囲気の中滞りなく終了いたしました。来年3月19日の完成にむけ、いよいよ工事が始まります。緊張感とともに、期待感が膨らんできます。 

茨木町での診療も残すところ9ヶ月となりましたが、職員一同今まで以上に頑張ってまいりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

今回は最近テレビや新聞などでよく見かける新しい出生前遺伝学的検査とはなにかお話したいと思います。

 

この検査は母体血中に含まれる胎児由来のDNA量を求めることで、胎児の染色体の数的異常を検出する非確定的検査です。数的異常の中でも現在対象となっているものは13番、18番、21番の3つの染色体についてだけになりますので、それ以外の染色体異常については知ることができません。また従来行われている母体血清マーカーに比べ感度が高いので、陰性の場合は上記3つの染色体数的異常がある確立はかなり低くなり、陽性の場合は高くなりますが、非確定的検査ですので、陽性の場合は羊水検査などの侵襲を伴う確定検査が必要になります。現在日本では限られた施設のみでしか検査できず(当院ではできません)、また検査を受けることができる妊婦も限られています。

検査自体は母体血を少量採取するのみで簡便にできるため、とりあえず検査してみようと思うこともあるかもしれませんが、検査の結果がもたらすものはとても重大なことです。ですので、検査を受けようかなと考えた時は、結果が出たらどうするかだけではなく、本当にこの検査を受けるのかどうするのかも慎重にご夫婦で考えることが大切だと思います。

 

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先日、ホルモン測定に使用している機器メーカーの研修会に行ってきました。最近よく耳にするAMHについてのお話があり、現在測定までに3~4時間かかるところを将来的には数十分で測定できるように開発中とのことでした。医療現場で必要とされることは常に変化しており、それに対応する企業の努力が見られ、私たちもより一層質の高い医療を提供できるよう努力していきたいと思いました。

 

AMHは卵巣内になる前胞状卵胞(成長途中の卵胞)から分泌されるホルモンで、その測定値と発育卵胞の数が相関することから、卵巣年齢を知る指標になると言われています。しかし、卵巣内にはいろいろな成長ステージの卵胞があり、前胞状卵胞以前のまだAMHを分泌していない卵胞もあります。そのため、AMHの値が0であったとしても、まだAMHを分泌していない小さな卵胞がないというわけではありません。また、AMHの値は発育卵胞の数の目安にはなりますが、卵の質までは知ることができません。ですから、AMHの値を気にしすぎることなく、参考にしながら赤ちゃんになることができる卵に出会えることを信じて治療に取り組めたらいいですね。

 

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 以前培養庫が温度・PH等の培養環境を一定に保つ役割があるというお話をしました。培養液の蒸発による浸透圧の変化を防ぐこと、炭酸ガスの検知器が加湿しないと作動しないという理由から培養庫には水を入れて加湿するというのが常識でした。

 しかし、技術は進歩し加湿の必要のない無加湿型培養庫が最近誕生しました。加湿せずともガス検知器が作動するようになり、また従来のものと比べお手入れも簡単になった模様です。

 機械の技術の進歩と共に私たちも日々努力し、技術を磨いて良い結果を残せるよう頑張ります。

先に日本産科婦人科学会から症例登録番号をとるという話をしました。登録には、もちろん名前は入れません。当院での治療周期ごとの患者識別番号で登録しています。治療時の満年齢や不妊原因、治療内容、妊娠の有無などです。入力項目は常に同じではなく、少しずつ変わることがあります。この入力した項目は、年ごとに集計され、有効に使われているようです。

 

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一般の不妊治療の助成は、どこの病院でもいいのですが、特定の不妊治療の助成は不妊治療指定医療機関でなくてはなりません。ホームページで調べると一覧があり、県内では現在8施設でした。金沢市が指定する医療機関は県内だけでなく県外の病院もあり、こちらもホームページで調べることができました。

助成対象者や助成期間など制限がいろいろある不妊治療の助成ですが、最近では毎年100件ずつ増えているとのことでした。申請して認可されると、その1ヶ月から1ヶ月半後には助成金が受け取れるとのこと。想像よりも早い対応に驚きました。不妊治療やその助成制度がより一般的になったのだと感じました。

もうすぐ3月ですね。3月と云えば仕事柄思い出すのが、不妊治療の助成の申請が増える頃だなということです。私たちは日本産科婦人科学会から症例登録番号をもらうことをしてますが、実際、どういう感じで申請手続きをするのだろうと思い、足元が良くなったので、近くの金沢市役所に行ってみました。

市役所の1階に医療費助成という窓口がありますが、不妊治療の助成は3階の健康総務課が窓口でした。まだ2月ということもあり、来客がいないようだったので、申請はどういう風にするのですか?と聞いてみたところ、とても丁寧に答えていただきました。

不妊治療と言ってもいろいろあるため、助成も『一般』と『特定』の2つがあることから教わりました。それぞれ申請する用紙も異なり、さらに助成金額や助成期間も異なります。当院の受付さんも詳しいですが、申請窓口に電話して尋ねることもできます。今回話をお聞きした担当の方も、電話で質問される方がたくさんいますので、分からないことがあったら、気兼ねなく電話して下さいと言っていただきました。

胚移植を終えて妊娠判定までの期間はとても長く感じることと思います。「何かしてはいけないことは?」「何かしないといけないことは?」とあれこれ考えて不安になったりしていませんか?

胚移植後は、何をしても構いません。特に安静にしている必要はなく、いつも通りに過ごしていただいて大丈夫です。何かをがまんしたから、何かをしたから着床するということではなく、移植した胚の生命力に関わってくることなのです。

でも、「いつも通りに過ごす」って、簡単そうでなかなか難しいですね。これはしてもいいの?と迷ったら、もしよくない結果であったときに後悔するように思うのであれば、控えめにするといいでしょう。

金沢たまごクリニックでは、胚移植が終了してお帰りになる時に、ART(IVF-ET)経過表をお渡ししています。

ART(IVF-ET)経過表は、今回の治療の総括記録です。採乱した卵子の数、媒精方法、受精、分割、あるいは胚盤胞への発育数、移植胚の状態、凍結した場合はどの状態のたまごが何個あるか、などが記録されています。

治療で使用した精子の状態も記載されていて、精子精製の処理前後の液量、精子濃度、運動率がわかります。処理前の正常所見はWHOによると、液量2ml、精子濃度2000万/ml以上、運動率50%以上とされています。これらを満たしていることが望ましいと思われていますが、ARTにおいては、処理後の精子濃度、運動率のほうがより重要になってきます。

精製処理後に、良好な運動精子がどれだけ回収できたかによって、conventional IVF と顕微授精のいずれの媒精方法が良いのか判断されます。

ART(IVF-ET)記録表をご覧になってわかりにくいことがありましたら、気軽にスタッフに尋ねてくださいね。

inc.jpgたまご(卵子・胚)は、「培養液について③」でお話ししたdishに入れて、培養庫(インキュベータ)内で保管・培養されています。たまごの発育には多くの因子が関係していますが、温度・PH等の培養環境を一定に保つことも大変重要なことです。この役割を果たすのが培養庫です。

 

たまごには快適に過ごせる温度があるため、庫内は生理的環境に近い37℃程度に保たれています。培養液のPHは7.2~7.4の弱アルカリが適当ですが、たまごが呼吸することで酸性に傾きます。庫内の炭酸ガス濃度を5%に調整することで安定させています。体内の酸素濃度は大気中(約20%)に比べて大幅に低いため、約5%の低酸素状態に設定されています。また、培養液の蒸発による浸透圧の変化を防ぐために湿度は高くなっています。

 

 

 

 

 

 

 

培養液について①、②のつづきです。以前にも "たまごの培養" で少しふれましたが、たまご(卵子・胚)を培養するときは、dish(ディッュ) という特別な容器に入れた培養液の中にたまごをそっと置いてあげます。たまごはピペットというガラス製の細いストローのような管で培養液ごと吸い上げて移動させます。培養の経過とともに、dish と培養液は交換していくのですが、この時培養液の組成も変化させていく方法が一般的です。


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左から順に、「採卵後から媒精後翌日まで」、「受精卵から分割期胚まで」、「分割期胚から胚盤胞まで」使用している培養dishです。それぞれ、ピンク色に見えるところが培養液の入っている部分です。受精後は個別培養といって「小さい培地」ひとつに対して胚をひとつ入れて培養しています。どれだけ小さいかというと、左の写真のdishの培養液(真ん中のピンクの部分)は1ml(1000μl)入っているのに対して、中央と右の写真のdishの培養液(ピンクの丸い点に見える部分)は20μlと50分の1です。

体外受精において、培養液や培養方法は卵子・精子・胚に直接影響を与え、その後の胚の発育はもちろん着床、妊娠にまで影響を及ぼす重要な役割を担っています。これまでの膨大な研究により、培養液や培養方法は日々進歩してきました。当院でも、検討を重ねて、成績の良い培養液を選択して使用していますが、人間と同じように、ひとつひとつの細胞にも個体差があって、全ての卵子・精子・胚にとって最高の培養液と培養方法を選ぶことはなかなか難しいのが現状です。

現在、様々なメーカーから何種類もの培養液が、開発、販売されていますが、今後もその開発は止まることは無いのではないかと思われます。それは、体外受精において、胚の培養液が体外受精で重要な因子であり、まだ完全に完成されていないことを意味しています。では何種類もの中からどうやって培養液を選べばよいのでしょうか? 残念ながら、答えは使用してみるしかありません。当院でも、グループ施設のこれまでの多くのデータを解析して、より良い成績が得られたものをメインの培養液として使用してきました。さらに、培養液の種類に加えて、培養方法も成績に大きく関与しています。体外受精の培養はとても小さな空間で行われるものですが、本当に深淵な世界だと思います。

体外受精において、培養液は、卵子・精子・胚に直接影響を与え、その後の胚の発育はもちろん妊娠にまで影響を及ぼす最も重要な因子の一つであり、必要不可欠なものと言えます。

ヒトの体外受精に用いられる培養液にも歴史があります。1985年にQuinnにより、ヒト卵管液の成分を基にした単純な組成からなる培養液 (HTF) が開発されました。HTFは従来の培養液に比べて品質管理が容易で安定した成績が得られたため、広く使用されるようになりました。1996年にGardnerらは、初期胚培養用と後期胚培養用で異なる連続型培養液 (Sequential Medium) を開発し、胚盤胞までの長期胚培養を可能にしました。これを契機に、胚盤胞までの培養が盛んになりました。

そもそも胚の代謝は、発育のステージにより必要な栄養素が異なります。Sequential Mediumはこのような胚の代謝を考慮し、発育時期に特異的な組成で培養を行うという考えに基づいて生まれました。これに対して、胚自身が必要な栄養素を選択・吸収し、利用するのではないかという考えから、受精以降一連した組成で培養を行う培養液も開発されています。

to be continued

卵子に精子をふりかけて受精を待つ「精子おまかせコース」を、「通常の体外受精」と言います。となると、卵子に精子を一匹入れ受精を待つ顕微授精は、「通常ではない体外受精」なのでしょうか?

体外受精:IVFは、約30年前に誕生しました。その頃は、まだ媒精(卵子と精子のお見合い)方法といえば、「精子おまかせコース」しかありませんでした。それから約10年後、技術の進歩により、顕微授精ができました。そこで、「顕微授精」と「精子おまかせコース」を区別するため、「精子おまかせコース」にも呼び方をつけましょう、となりました。そしてついた名称が「Conventional IVF」だったわけです。

一般的に、「Conventional IVF=通常の体外受精」と訳されますが、Conventionalには、従来の、という意味もあるので、「顕微授精よりずっと前から行われている=従来の体外受精」というほうが、しっくりくるのかもしれません。つまり、顕微授精は、「通常ではない体外受精」ではなく、「通常の体外受精より後にできた媒精方法の一つ」ということなのです。

日本産科婦人科学会の統計処理でも、「体外受精」と「顕微授精」に分類されていますが、本当は、「顕微授精」も「体外受精」のひとつなので、なにかしっくりきませんね。もっと明確な用語が提案されるといいなあと思っています。

 

 

私たち培養士は、採卵後から、卵子や精子の状態を逐次、患者さんに説明していきます。採卵当日には、必要に応じて卵子と精子のお見合い(媒精)のさせ方を相談します。さらに採卵翌日には、きちんと卵子と精子が合体(受精)できたか、翌々日には、細胞分裂が始まったかをお電話で報告しています。胚盤胞移植もポピュラーになりましたので、培養経過も複雑になり、移植や凍結の計画も合わせて、報告する内容がとても多くなってきました。
体外受精を受けられる方にとって、卵子・精子の状態、受精成立、初期胚・胚盤胞の発育状況は、とても大切な一大関心事です。でも、たまに、採れた卵子の状態から、今後の受精・初期胚・胚盤胞までの経過予想を要求されて、答えに困ってしまうこともあります。これまでの膨大な培養経験やデータから、いろいろ戦略を考えてベストを尽くそうとしているのですが、機械と異なり、生物(細胞)は本当に予測不能の局面があります。もし、期待・予定どおりの説明や報告ができなくて、もどかしい時があっても、一生懸命心を込めて培養していきますので、どうか許してくださいね。

体外で精子と卵子を受精させるには、媒精 (卵子と精子のお見合い)をすることが必要です。媒精には、体外受精のいろいろな歴史を経て、現在、「通常の体外受精:conventional IVF」と「顕微授精:ICSI」の二通りがあります。精液検査所見がある基準をクリアできれば、「通常の体外受精」が選択されます。

「通常の体外受精」は、卵子と培養液の入った dish (培養するために作られた特別の容器) に、良好な精子を10万から20万匹ほど入れます。つまり、精子に「おまかせコース」です。精子たちは卵子めがけて懸命に泳いでいき、卵子の周囲にたくさん接着してなんらかの反応を卵子に与えた後、運命の精子一匹が卵子の透明帯・細胞膜を通過して、内部 (細胞質) に進入します。卵子の細胞質に入った精子は頭部が変化して雄性前核 (父側の遺伝子のかたまり) になり、順調に成熟した卵子内の雌性前核 (母側の遺伝子のかたまり) と合体できると、めでたく「受精」となります。

 

 

 

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採卵の次の日、受精確認の際、「受精はしていますが、異常受精になってしまったので、 このたまごは治療には使えません」と言われたことがある方もいると思います。クリスマスの時にお見せした写真では、たまごの中にある前核というものが 2個だったのに対して、上の写真では見にくいかもしれませんが、3個認めます。この現象は、普通の体外受精の場合、ほとんどは精子が2匹入ってしまった場合に発生し、多精子受精といいます。(研究中ですが、精子を1匹だけたまごに入れる顕微授精の場合にも、受精確認時にたまごの中に前核を3個認めることがあり、こちらはたまごの減数分裂の失敗が原因のようです。) 精子が2匹入ったのなら、双子になる んじゃないか !? と思われるかもしれませんが、実は、染色体が多くなってしまうため、正常には発育しません。ですから、せっかく受精しても移植することができません。1卵生の双子でも、たまごと精子は1対1で受精しているんですよ。

 

 

 

体外受精はまず、採卵からはじまります。超音波をみながら卵胞に細長い針をさして、中のたまごを取り出すのが採卵です。「針をさす」と聞くととても痛いように感じますが、チクッとするくらいで、時間も5分程度で終わります。

もちろん痛みには個人差があります。でも、痛みに強い人・弱い人・怖がりな人など、毎日いろんな方が採卵をしていますが、はじめは不安でいっぱいでも終わってみるとほとんどの方が、「意外と大丈夫でした」と言われます。

そして採卵が終わると、採れたばかりのたまごをモニターで見ることができます。ご自身のたまごをみて緊張から安堵の表情にかわる様子が拝見できると、私たち培養士もほっとします。

どうぞあまり怖がらず、リラックスした気持ちで採卵にのぞんでくださいね。

                    
 
 
卵子の膜が硬かったり、精子の数や動きに問題があると、精子は自力で卵子の中に入ることができません。そんなとき、写真のように細い針を使って、精子が直接卵子の中に入れるように手助けをします。これが顕微授精です。
でも顕微授精は、あくまで精子が卵子の中に入れるようにお手伝いをするだけ。その後受精するかしないかは、卵子と精子の生命力に任されます。
どうか受精しますように、と願いをこめながら一つ一つ大切に顕微授精に取り組んでいます。

 
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