たまごの凍結保存 (3)
体外受精では、たまご(卵子や胚)を凍結保存することによって治療戦略にvariationを付加できます。現在普及している「ガラス化法」は、昔行われていた「緩慢凍結法」に比べてものすごいスピードでたまごを液体窒素の温度(摂氏マイナス196度)まで冷却して一瞬に凍らせます。でも、ただ無茶苦茶冷やせばいいというわけではなく、ある工夫が必要です。
人間の体と同じように、たまごの細胞もそのほとんどが水からできています。そのため、そのまま液体窒素に入れるとたまごの中の水が氷結し、氷は水より体積が増加するので、細胞内小器官や細胞膜を破壊し、たまごは生存できなくなります。ペットボトルのウーロン茶を冷凍室に入れて凍らせると容器が破裂しそうに膨らむのを見たことがあると思います。ダメージを与えずにたまごを凍結するには、まず、たまごの中の水分をできるだけ減らすことが鍵になります。
いろいろな研究の結果、「ガラス化液」という高濃度の特殊な培養液が開発され、たまごの凍結法は飛躍的に進歩しました。たまごを「ガラス化液」に入れると浸透圧により脱水され細胞内の水分は短時間で激減します。さらにたまごにやさしい特別な凍結保護剤を加えることで、細胞内の水は氷にならずに液体窒素の中で一瞬に凍結でき、生存率がとても高くなりました。細胞内の水分を結晶化させずに透明なガラス状の固体に変化させることから「ガラス化法 Vitrification」と呼ばれています。