labo report

一度の採卵で移植できる胚が複数確保できた場合、移植した後に残った胚(余剰胚)は凍結して保存しておくことができます。凍結するステージは初期胚(day2またはday3胚)と胚盤胞の2つから選択できます。

次の治療のために確実に凍結胚を残しておきたいときは、初期胚凍結をおすすめすることが多いです。胚盤胞凍結の場合、、すべての胚が胚盤胞になるわけではないので、胚盤胞まで育たずに凍結できなくなる可能性があります。しかし、胚盤胞にまで成長した胚は妊娠率が高いといわれているので、胚の生命力を見極めたいと思うときにチャレンジしてみるのもよいと思います。

基本的には初期胚のグレードをお伝えして、どちらのステージで凍結するかを移植の日に決めてもらっていますが、分割状態によっては培養士のほうで胚盤胞培養をおすすめすることもあります。

わからないこともたくさんあるかと思いますので、お気軽に培養士に相談してくださいね。

顕微授精をする際、卵子が成熟しているかどうか見極めてから行います。なぜかというと「卵子の成熟とは...」の回でもお話ししましたが、成熟していない未熟卵子は、減数分裂が完了していないため精子を受け入れることができません。成熟卵子には極体という印があるので、これが確認できれば顕微授精を行います。印がなく未熟卵子の場合でも、一晩お預かりして培養することで成熟卵子になることがあります。成熟すれば顕微授精を行いますので、採卵でせっかく採れた卵子が未熟だったとしても、あきらめずに待ってあげてくださいね。

 

eggseijuku2.JPG

 

卵胞が成熟してきたかどうかの判断は、卵胞ホルモン(E2)の測定とエコー検査での卵胞の大きさの計測で行います。

 

1成熟卵胞あたりのE2値は200pg/mlくらいで、卵巣に確認される成熟した卵胞の数をかけた値くらいあることが目安になります。つまり、採卵できそうな卵胞が3個あったとしたら200×3=600pg/ml以上あればいいと考えます。また、卵胞は成熟してくると18~20mmほどの大きさになるので、エコー検査で大きさを測定して確認します。

 

採卵日を決めるときはE2値と卵胞の大きさを指標にします。これらをチェックすることにより卵胞が成熟してきたことは判断できるのですが、残念ながら卵胞の中に入っている卵子の質まで判断することはできません。なので、採卵をしても卵子が入っておらず空胞だったり、あまり質のよくないものが入っている場合がときどきあります。

 

育ってくる胞状卵胞の中にはすべて卵子が入っているわけではなく、こうした中身のないものやあまり質の良くないものが入っていることもあるのです。原因はもともと入っていなかった、もともと質がよくなかったということになります。

 

そのおおもとの、なぜ入っていなかったのか、なぜ質がよくなかったのかは、年齢的な問題であったり、最初からそうだったということもあるでしょう。

以前培養液のお話をしましたが、覚えていますか?

当院では採卵から胚盤胞培養まで3種類の培養液を使用していますが、胚の培養液交換は異なる種類の培養液にかえるときだけに行うわけではありません。同じ培養液で培養する時も、ときどき培養液を交換しています。それはなぜかというと・・・。

 

培養液には胚の成長に必要な栄養がたくさん含まれています。しかし、胚が成長していく中で、ずっと同じ培養液の中にいるとだんだんと栄養が消費されてなくなっていきますよね?ですから、ときどき新しい培養液にかえてあげることで、ちゃんと胚に栄養がいきわたるようにしています。

また、成長するということは胚も私たちと同じように生きているわけですから、栄養をとりいれた後は老廃物を排出します。このいらなくなった老廃物が胚の周りにどんどん溜まっていくと環境が悪くなり、成長の妨げになるかもしれません。そのため、この老廃物を取り除くためにも、培養液交換をしています。

このように胚は何度かの培養液交換を経ながら大きく成長していきます。私たち培養士は、胚がお母さんのお腹の中へ戻るその日まで、元気にすくすくと成長するようにお母さんの代わりとなって大切に見守っています。

出生時精巣には胎児期に作られた精祖細胞が存在します。出生後精祖細胞は体細胞分裂し、1つの精祖細胞から4つの一次精母細胞が作られます。一方出生時卵巣には胎児期に作られた卵祖細胞が体細胞分裂し、一次卵母細胞(原始卵胞)となった状態で存在します。このように出生時には精子と卵子の元はすでに違う段階で存在しています。つまり、出生後精子の元である一次精母細胞は増やすことができ、増やすたびに生まれたての細胞になりますが、卵子の元となる一次卵母細胞は増やすことができず、私たちと同じように年を重ねていきます。

さらに、思春期になり精子、卵子が作られる過程でも違いがあり、精子は1つの一次精母細胞から減数分裂によって4つ作られますが、卵子は1つの一次卵母細胞から減数分裂によって1つしか作られません。

  

eggsperm20.JPG 

   

   

 

90703.jpg  

 

自然に妊娠した時の体内での胚の動きです。もちろん、胚は子宮に対しこんなに大きくはありませんが・・・。

子宮をのぼってきた精子と卵巣から排卵された卵子は卵管の先の方にある卵管膨大部で出会い受精します。その後、受精卵は分割を繰り返しながら卵管を移動し子宮に向かっていきます。

胚盤胞にまで成長したころには子宮まで移動し、孵化すると子宮の内膜にくっつき着床となります。ですので、初期胚を移植された方は早くて移植してから4~5日後、胚盤胞の移植の方は、1~2日後には着床されることが推測されます。

moyamoya.jpg採卵を経験された方は、卵子を手術室内のモニターでご覧になったことがあると思います。たいていの場合、卵子はモヤモヤしたものに囲まれていてあたかも小さな目玉焼きのように見えます。このモヤモヤの正体は顆粒膜細胞(卵丘細胞)で、卵子を成熟させる大切な役割を持っています。卵子は成熟するまで、顆粒膜細胞と一緒に卵胞という袋の内壁にへばりついていますが、成熟すると内壁からはがれて卵胞液の中をただよい、排卵の時を待ちます。採卵は、超音波のガイド下に卵胞を特殊な細い針で穿刺して卵胞内の液体(卵胞液)を吸引しておこないます。培養士が、吸引された卵胞液中にただよっているモヤモヤを目印に卵子をすばやく探して培養液に移し、顕微鏡を通したモニターの画面上でめでたく「ご対面」となります。

 

前々回卵子の元となる原始卵胞のお話をしましたが、今回はその続きです。

 

20~30万個ほどに減った原始卵胞は思春期になると、日々いくつかが成長を始めます。そして成長を始めて約65日後、ちょうど月経周期がめぐってくると下垂体から分泌される卵胞ホルモンの影響を受け、さらに大きく成長していきます。このように、成長を始めた卵胞すべてが月経周期にエントリーされるわけではなく、ちょうどホルモンの影響を受けられる大きさになったものだけがエントリーされます。そのため、1度の月経周期にエントリーされる卵胞は10数個ほどだとされています。また、その10数個の卵胞も成長の度合いが異なるため、大きさが揃っているわけではありません。その結果、最終的にはこの中で1番大きく、1番ホルモンに対して反応の良かった1個が大きく成長し排卵されます。それ以外の卵胞はこれまでのように自然と数を減らしていったり、排卵に向けて成長を始めても途中で成長が止まり体に吸収されたりします。

このようにして初潮から閉経までの間に排卵される卵子の数は400~450個ほどだといわれています。つまり、排卵される卵子はすべての原始卵胞のうちのほんのわずか、約5万分の1個ほどなのです。

卵子の大元となる細胞を、"卵祖細胞"といいます。

まだ お母さんの子宮の中にいる頃に作られ始めます。

妊娠6ヶ月頃 約500~700万個ほどになり、この時期が最大となります。その後は自然に減少し、出生前には約200万個ほどになります。

そして、卵祖細胞から少し成長した"卵母細胞"となり卵巣の中で、長い長い眠りにつきます。

 

生まれる時は、この卵母細胞(約200万)と共に生まれるのです。

生まれた後も、この卵母細胞の自然減少は止まりません。

7歳頃には50万個、思春期には20万~30万個ほどになります。

そしていよいよ月経が始まると、目覚めた卵母細胞が発育し、"卵子"が排出されます。

まさに10数年間の眠りから目覚めた、"卵子"の誕生です。

 

"卵母細胞"は、"長生き細胞"です。自分と同じように年を重ねています。

前回AHのお話で透明帯の役割について少し触れましたが、今回はもう少し詳しくお話したいと思います。

 

透明帯とは卵子の周りを覆っている糖たんぱく質の膜です。

透明帯にはいくつかの役割があり、その1つが受精における先体反応の誘起と多精子受精の阻止です。受精において精子が卵子に入り込む際、精子の先端から酵素が放出されることで精子が透明帯を通過し卵子に入り込むことができるようになりますが、透明帯はこの先体反応を引き起こす働きがあります。また、1匹の精子が卵子に入り込むと透明帯が変化し、他の精子が侵入できないようにすることで多精子受精を防いでいます。

そして、前回お話したように分割期にある胚の細胞がばらばらにならないよう囲い、さらには周囲からの悪影響を受けないように胚の中身を守ってくれています。このように、透明帯は卵子ができてから胚が子宮壁に着床するまでの間、胚を外界から守り、保護する役割をも担っています。

最近アシステッドハッチング(AH)という言葉をよく聞くことがあるかと思います。

ではAHとはいったい何なのでしょう?

以前、胚盤胞は透明帯という殻を脱ぎ捨てて子宮内膜に接着し、着床するとお話したことを覚えていますか?この、殻を脱ぎ捨てるという行動をハッチングといいます。そう、このハッチングを人の手でお手伝い(アシスト)することがアシステッドハッチング(AH)です。

通常は胚自身の力や酵素の力などで自然と殻が破れるのですが、まれに殻が分厚かったり硬かったりして破れにくいことがあります。そんな時にこのAHをしてあげることで、着床しやすいように手助けしてあげることができます。

 

では、胚を移植する時いつでもAHすればよいのでしょうか?

そうではありません。例えば採卵2日後に移植する時、胚は4細胞などの分割胚の状態にあります。この時期に透明帯を取ってしまうと、1つ1つの細胞がくっつていないため、細胞みなが離れ離れになってしまいます。透明帯は細胞がばらばらにならないように囲ってくれているのです。その後胚盤胞になるころには細胞間の結合が強まり、もうばらばらになることはありませんが、透明帯は周囲からの悪影響を受けないよう胚の中身を守ってもくれています。このように、透明帯はある時期の胚にとってとても大切なガードマンのような存在なのです。つまり、もう殻を脱ぎ捨てる準備が整っているのに殻が破れない時はAHがとても有用なものとなりますが、まだ脱ぎ捨てる準備が整っていないのに無理矢理殻を脱がせてしまうことが胚にとっていいこととは言えないのです。ですから、私たちはAHを行う時期と必要性を見極めてハッチングを手助けしています。

着床とは、たまご(胚)と子宮内膜が接着して相互に物質交換できる状態になることです。チューリップの球根を植木鉢の土に埋めてあげた後、根が生えてきて土から水分や栄養分を吸収できるようになった状態をイメージしてもらうといいかもしれません。

移植したたまご(胚)は、次の過程を経て着床します。

①「初期胚」は細胞数が100個ほどの「胚盤胞」に発育して拡張する ②「胚盤胞」は拡張することや酵素の作用などにより、透明帯という殻を脱ぎ捨て「脱出胚盤胞」になる ③ 子宮内膜の細胞に接着し周辺の細胞をかき分けて内膜の奥(子宮間質)に潜り込む

この一連のステップを完了して着床に成功し、さらに発育が進んで絨毛(球根に例えたら根に相当する細胞)が増えてくると、約1週間後の妊娠判定日にHCGというホルモンが検出されて「おめでとう」となります。

体外受精では、たまご(卵子や胚)を凍結保存することによって治療戦略にvariationを付加できます。現在普及している「ガラス化法」は、昔行われていた「緩慢凍結法」に比べてものすごいスピードでたまごを液体窒素の温度(摂氏マイナス196度)まで冷却して一瞬に凍らせます。でも、ただ無茶苦茶冷やせばいいというわけではなく、ある工夫が必要です。

 人間の体と同じように、たまごの細胞もそのほとんどが水からできています。そのため、そのまま液体窒素に入れるとたまごの中の水が氷結し、氷は水より体積が増加するので、細胞内小器官や細胞膜を破壊し、たまごは生存できなくなります。ペットボトルのウーロン茶を冷凍室に入れて凍らせると容器が破裂しそうに膨らむのを見たことがあると思います。ダメージを与えずにたまごを凍結するには、まず、たまごの中の水分をできるだけ減らすことが鍵になります。

いろいろな研究の結果、「ガラス化液」という高濃度の特殊な培養液が開発され、たまごの凍結法は飛躍的に進歩しました。たまごを「ガラス化液」に入れると浸透圧により脱水され細胞内の水分は短時間で激減します。さらにたまごにやさしい特別な凍結保護剤を加えることで、細胞内の水は氷にならずに液体窒素の中で一瞬に凍結でき、生存率がとても高くなりました。細胞内の水分を結晶化させずに透明なガラス状の固体に変化させることから「ガラス化法 Vitrification」と呼ばれています。

 

 vit.genri1.JPG

 

 

ガラス化凍結法では、写真のような、「クライオトップ」といわれる耳かき状のプラスチックの特殊な棒の先端部に、胚を貼付ける様にのせて保存しています。
最近の体外受精は、mild ART が key word です。HMG や FSH 製剤を多用する強力な排卵誘発は避けて、自然周期や clomiphene によるやさしい排卵誘発が主体になっていますから、昔に比べて採卵される卵子の数は激減しています。 それでも、数個は採取され、単一胚移植の後に余剰胚が生じることがしばしばあります。この余剰胚を凍結保存しておけば、採卵周期に妊娠できなかった場合でも、次周期に採卵しないで凍結胚を融解し再度移植の機会を得る事が可能になります。また、妊娠、出産できた場合にも、余剰胚を凍結保存しておくことで、二人目、三人目の治療に使用することが可能となります。

P1000008.jpg

胚の移植方法には、カテーテルの通るルートにより、経子宮頚管法(上図)と経子宮筋層法(下図)の2種類があります。

当院では基本的に経子宮頚管法を行っています。「胚移植」の記事でもふれていますが、この方法では、胚を吸引した細いカテーテルを子宮の入り口(外子宮口)から挿入し、子宮の奥に注入します。採卵と異なり、針は使用しないので、痛みはほとんどありません。

経子宮筋層法では、筋層を経て子宮内膜まで特殊なガイド針を刺入し、そのガイド針の中へカテーテルを挿入して子宮の中に胚を注入します。子宮頚管内にポリープがあったり、頚管の屈曲が強くて経子宮頚管法ではカテーテルが挿入できない症例でも移植が可能です。19年前に、永遠幸マタニティクリニック(現永遠幸レディスクリニック)で開発された方法で、「TOWAKO法」といわれています。 

etet1.JPGetet2.JPG

「胚移植」とは、採卵で卵巣から取り出した卵子に精子を与えて受精させ、細胞分裂した分割卵(胚)、あるいはもう少し発育の進んだ胚盤胞を子宮の中に戻してあげることです。胚移植の方法を説明します。胚は酸素によるストレスを受けやすいのですべての操作は培養液中に入れたまま行います。また、胚はとても小さくデリケートで、どんな小さなピンセットでつまんでも人の握力では押しつぶしてしまうため、シリコン製のやわらかいチューブで少量の培養液と一緒に吸い上げて運んでいます。 


 isyoku.JPG


このチューブはとても柔らかいので、そのままでは曲がってしまい子宮の奥まで入れることができません。そのため予め少し硬さのあるガイドカテーテルと呼ばれるストローのようなもの(下の写真の白い棒状のもの)を子宮の入り口(頚管)に挿入して通り道を確保します。このガイドカテーテルもかなり細いので通常は挿入の際にはほとんど痛みを伴いません。しかし、子宮の形状によってまれに挿入に少し苦労することがあります。


guidekate-teru.jpg


無事にガイドカテーテルが挿入されれば、そこに胚を吸い上げたチューブを通して、子宮の中に胚をそっと届けることができます。胚移植の際は採卵の時と同じように緊張したり不安になったりするかもしれませんが、できればリラックスして、"おかえり"という優しい気持ちで胚(赤ちゃんのもと)を迎えてあげて下さいね。

1980年代の凍結受精卵による妊娠例の報告は、生殖補助医療関係者にとって画期的な出来事でした。ただし、当時の成績はまだまだ満足のいくものではありませんでした。20年余にわたる多くの研究者の様々な改良工夫によってその成功率は向上し、たまご(卵子や胚)の凍結保存は、不妊治療戦略の可能性を広げる技術として、生殖補助医療の歴史の中で重要なマイルストーンとなりました。

現在、主流となっている凍結保存法は「超急速ガラス化法(Vitrification法)」と呼ばれるものです。金沢たまごクリニックでもこの方法を用いて大切なたまごを凍結保存しています。凍結の際に、凍結保護剤を凍結保存液に添加していますが、この種類と量のノウハウがたまごの生存性に大きく寄与しています。「超急速ガラス化法」と言う名前は一瞬に室温から摂氏マイナス196度まで冷却されるスピードが由来となっています。凍結されたたまごはほぼ完全に細胞内の分子運動がなく、いわば時間が止まった状態となり、理論的には半永久的に保存が可能であると言われています。

compaction.jpg

以前、分割胚が胚盤胞まで発育する経過中、ばらばらに離れている細胞どうしがいったん中央に集まって密着する、というお話をしました。上の写真が細胞どうしが密着している状態です。このように、細胞どうしがゆるい配列から急に集まってひとかたまりに接着したような状態になることを「コンパクション」といいます。ヒトでは16細胞くらいになると「コンパクション」が起こり、細胞の代謝が活発化して、タンパク合成が増加するといわれています。「コンパクション」の最中に、細胞どうしがなんらかの連絡をとりあって胚発生の過程でどの細胞がどの器官に分化 していくか役割分担を決めていると考えられています。この現象が起きなければ、いくら細胞が増えても胚盤胞には発育できません。この劇的な変身には多くのエネルギーを必要とするため、すべての分割胚がこの壁を乗り越えられるとは限らず、胚盤胞まで発育することが難しいのかもしれません

 

 

 

 

通常の体外受精と顕微授精の受精率の差についてよく質問を受けます。両者には若干の差があります。

顕微授精の場合、卵子の周りに付いている卵丘細胞(目玉焼きの黄身が卵子だとすると、白身に相当する細胞)を取り除いて、成熟を確認した卵子のみに行います。そして卵子に精子を直接入れるので、必ず出会えます。(ただし、出会った後に何らかの反応を経て受精となるので、100%受精するわけではありません)

通常の体外受精の場合は、卵丘細胞が必要なので取り除きません。このため媒精(お見合い)した卵子の中に、未熟で精子を受け入れられない卵子が含まれている場合もあります。また、自然に出会うのを待っているので、受精障害がある場合には出会いそびれ(精子が卵子に進入できない)が生じます。

以上の理由から、統計処理をすると顕微授精の受精率が少し高くなります。受精した後の胚の発育・妊娠率に差はないため、培養士と医師は、精子の状態・過去の治療歴などからどちらの方法がよいのかいろいろ考えていますが、患者さんの希望も大切にしたいと思っています。 「やってみたいけどよくわからない・・・」ということがあれば、気軽に声をかけてくださいね。

通常、ヒトの細胞は性別を決めるための性染色体を2本持っています。

しかし、卵子、精子それぞれは性染色体を1本しか持ちません。どうし

て1本になるかというと、2本づつあるいは片方が2本の性染色体をもっ

て受精をすると、その受精卵は性染色体が3本や4本になり、染色体

異常疾患となってしまいます。そうならないために、卵子や精子は2本

から1本になるため、減数分裂という細胞分裂を行い、受精に備えます。

また、性染色体だけでなく、他の遺伝情報をもつ常染色体に関しても

同じで、染色体の不足や過剰は染色体異常疾患に繋がります。

 

少し難しくなりましたが、減数分裂を簡単にいうと、染色体が多くなり

すぎないように、細胞質の中にある染色体を2つにわけ、半分を細胞

質の外に放り出すという作業です。放り出されたものを極体といい(緑

の矢印)、これが確認できるたまごが成熟している卵子ということです。

つまり、極体が見えないたまごは、まだ減数分裂が完了しておらず、

精子を受け入れることができないのです。

 

                        oocyte-m2.jpg 

 

当院で採卵後に胚盤胞移植をする場合は、5日目もしくは

6日目に発育した胚を移植しています。ただ、なかには発育が

ゆっくりで、7日目にようやく胚盤胞になる胚もあります。

その場合、採卵した周期には移植せずに凍結保存しています。

 内膜には「インプランテーションウィンドウ」という胚の着床可能な

期間があり、採卵後7日目に胚盤胞を移植しても、すでに内膜は

胚を受け入れられない状態になっていて、せっかくの胚が無駄に

なってしまうと考えているからです。

 凍結保存した胚盤胞は、別の周期にホルモン値測定や超音波診断から

内膜の受け入れ態勢を考えて移植します。

大切な胚がひとつでも多く妊娠につながりますように・・・

cleav speed2.jpg

生物の授業などで聞いたことがあるかもしれませんが、細胞は分裂を繰り返して増えていきます。1つが2つに分裂することを繰り返すので、単純に考えると、細胞の数は1→2→4→8→16と倍々に増えていくように思えます。でも実際には、初期胚移植の時に、細胞(割球)の数が3個だったり、5個や6個のたまごもしばしばあります。上の写真は、受精からほぼ同じ時間を経過した時点で観察した、まごたちすが、左から3細胞、4細胞、5細胞と割球の数が違いますね。これは、体の成長個人差があるように、細胞1個1個の発育スピードにも違いがあるためと思われます。そのため、「1つの割球は分裂したが、もう1つの割球が分裂するちょっと前」、というタイング たまごを観察すると3細胞だったり5細胞になっていたりするわけです。3細胞や5細胞が、不良のたまごというわけでは決してありませんから安心してくださいね。

 

blasto.JPG

体外授精をしていると、よく胚盤胞という言葉を耳にすると思いますが、

実はあまりよくわからない、という方もいるのではないでしょうか。

長めに培養をして、発育が進んだたまご...となんとなく理解しているとは

思いますが、少し詳しく紹介しましょう。

2日目で移植を行うときは、初期胚といって細胞が4個前後のたまごを

子宮に戻しています。それらは見たまま、細胞数が3個や4個、5個といった

ものですね。そこからさらに3日ほど培養を続けると、細胞分裂を繰り返し、

細胞数が100個近くまで増えてきます。

細胞が増える過程で、離れている細胞はくっついたりもします。1つ1つが

離れている間は中央に細胞が集まっていますが、いったんくっついた後は、

細胞は外側に広がり、中央に空洞を作っていきます。

この,細胞数が増えて空洞を作った状態が胚盤胞です。胚盤胞になると、

細胞の役割が2つに分かれます。上の写真で11時の方向にある丸い塊は

内細胞塊といって、将来胎児になっていくものです。その他のぐるっとまわり

を囲んでいる扁平な細胞が栄養膜細胞といって、将来胎盤などになっていく

ものです。

また胚盤胞になると、成長の仕方が変わっています。どんどん大きさが大きく

なるのですが、身長が伸びるようにただ大きくなっていくのではなくて、縮ん

だり広がったりを繰り返して大きくなっていきます。ですから、移植の時にたま

たま縮んでいて中身が小さくても心配はありません。これから大きくなっていく

んだなと見守ってください。

これで少~し胚盤胞のことがわかったでしょうか??

100224_1741~0001.jpg

 

 

 

 

 

 

 




採卵されたたまごはその後、どのように培養するのでしょう?

施設によって若干の違いはあるかもしれませんが、通常、たまごは、写真のような直径6cmほどの特殊な容器で培養されます。この培養容器を、わたしたちはdish(ディッシュ )と呼んでいます。dishの中央のくぼみ部分に入れた培養液の中でたまごは成長していきます。また、培養液にもいろいろな種類がありましたが、これまでの多くの研究を経て、たまごが必要とする栄養分の組成を考え、現在、次の3種類に分類されます。

  1.採卵後から媒精(精子と卵子のお見合い)後翌日まで培養するもの

  2.受精卵から分割期胚まで培養するもの

  3.分割期胚から胚盤胞まで培養するもの

この3種類の培養液を、たまごの成長スピードにあわせて順次使用していきます。毎日たまごの状態を観察し、慎重に培養液を交換しながら、最長7日間培養します。移植したり凍結保存するその時が来るまで、たまごは培養士に温かく見守られて成長を続けていくわけです。

                       

今回は、胚盤胞のグレードについて少し書いてみます。

体外培養で、写真のように発育したものが、胚盤胞で、着床の準備を、ほぼ整えた状態まで発育したものです。

写真の胚では、511AAと評価しています。当院では、グレードの評価は、発育日数、成長段階、内部細胞塊と栄養外胚葉の状態を評価し英数字で表しています。511AAとは、5日目の発育で、拡張充分で、内部細胞塊と栄養外胚葉の状態が、良好と評価されたものです。

詳細は、また次の機会で、紹介します。

今回は、「初期胚のグレード①」のお話を、採卵から2日目で

4細胞に発育した初期胚を例に挙げて、具体的に説明しようと思います。

 

初期胚のグレードは、主に3つの指標をみているといいましたね。

青色の部分は細胞、黄色はフラグメントです。(実際には、色はついていませんよ)

 

cleav.JPGグレード1

発育順調、割球のサイズはそろっている、フラグメントなし

グレード2

割球のサイズはそろっているが、少しフラグメントあり

割球のサイズが不ぞろいだが、フラグメントなし

 

グレード3

割球のサイズはそろっているが、フラグメントあり

割球のサイズが不ぞろいで、少しフラグメントあり

グレード4

割球のサイズはそろっているが、フラグメント多い

割球のサイズが不ぞろいで、フラグメントあり

 

 

他にもいろいろ細かく観察して、最終的にグレードを決めているので

多少のズレはありますが、参考にしてみて下さいね。

 

     4分割した胚の状態。卵の中に4つに分離した様子が見える。

前回、当院でのグレードのつけ方を 紹介しましたが、ここでは、実際の胚を、示してみます。

写真は、day2における、グレード1に相当するものです。実際の、培養では、2〜3割程度ぐらいの頻度で、みられます。

これぐらいの、胚を戻せれば妊娠の期待も膨らみます。但し、絶対と言うわけでは、ありません。妊娠には、胚の見た目の善し悪しだけではない、他の因子も絡んでくるので不明な部分が、多いからです。

培養師は、卵ひとつひとつにグレード(通知簿)をつけています。

今回は、当院でのグレードのつけ方を紹介しましょう。

 

初期胚(採卵2,3日後)の場合、4段階で評価しています。

 指標は主に以下の3つ

①発育のスピードは順調か

②割球のサイズは揃っているか

③余分な細胞片(フラグメント)は出ていないか

 

申しぶんのない卵であれば、グレードは「 1 」となります。

ただしグレードは見た目だけを評価したものであって、卵自身がもっている

生命力を評価したものではありません。

たとえグレードが良くなかったとしても、やさしく見守ってあげてください。

kuromojya2.jpg


移植をされた患者さんの中には、緑の矢印ような黒い物体が
自分の受精卵にくっついていて、「何だこれは!?」 と不安に思ったことがある方もいるかもしれません。実はこれは卵子が成熟するために必要な養分を、 卵が取り込みやすいように処理する細胞です。卵の周りにはぐるっとくっついています。もちろん、卵が成熟してしまえば必要なくなるので、自然に卵からはがれていきます。私たち培養士は、卵の受精を確認するときに、この細胞をはがすのですが、中にははがれにくいものもあります。そんな時、受精が確認できるくらいはがせれば、あとは無理にはがそうとして卵にストレスを与えるより、自然にはがれてくるのを待っているほうが、卵にはやさしいと考え、そのままにしています。ですので、このくろいもじゃもじゃは悪いものではなくて、実は影の立役者なのです。あまり驚かないで、御苦労さまという気持ちで見守ってあげてください。

 

カテゴリー
アーカイブ